個別表示

天才女流チェリスト、ジャクリーヌ・デュ・プレ没(1945〜1987)
2004年10月19日(火) rain.gif
  難病で閉ざされた演奏家の道

 ジャクリーヌ・デュ・プレは、イギリスが生んだ女流チェリストの最高峰の一人です。デュ・プレは5歳でチェロを習いはじめ、その並外れた音楽的才能はすぐさま開花しました。そしてカザルス、トルトゥリエ、ロストロポーヴィッチといった今世紀最高のチェリストたちに師事することによって、その才能はますます磨き上げられていったのです。演奏家としてデビューしたのは、なんと16歳の時。演奏会が行われたロンドンの聴衆は、天才少女の出現を熱狂的な拍手で迎えたといわれています。

 デュ・プレは、バッハからエルガーまで幅広いレパートリーを持っていましたが、どんな曲を演奏する時も、ほとばしるような熱気と、さわやかな余韻が感じられました。それは、作曲家の曲を再現するというよりも、デュ・プレ自身を表現する行為、といっても良いものでした。22歳の時には、ピアニストで現在は指揮者でもあるダニエル・バレンボイムと結婚。彼女の前には、輝くばかりの未来だけが待っているかのように思われたのです。

 しかし70年代初頭、突然の不幸がデュ・プレを襲います。多発性脳脊髄硬化症という不治の難病によって、彼女は引退を余儀なくされてしまったのです。チェロを弾くどころか、ほとんど寝たきりの日々…けれど彼女の音楽への情熱は冷めることはありませんでした。不自由な身体を押し、デュ・プレは後進の音楽家の教育活動に専念するようになったのです。そして1987年、一世を風靡した天才少女は、初々しい笑顔の記憶と20世紀の財産ともいえる素晴らしい演奏を残し、42年の生涯を閉じたのでした。
 



- Web Diary Professional ver 2.28 -