|
3度も雲隠れしたテナー・サックスの巨人
ソニー・ロリンズは、現存するジャズ・ミュージシャンの中で、最大の巨人の一人です。豪放なサックス・サウンドと、汲めども尽きぬ泉のように生み出されるアドリブ・フレーズは、まさに即興芸術としてのジャズの最高峰と言っても過言ではないでしょう。しかし天才には天才の苦悩があるもの。特にロリンズは自分に対して非常に厳しい人らしく、これまでの生涯に3回もジャズ・シーンから雲隠れしているのです。
1回目の雲隠れは1954年から55年の1年間。この時すでにロリンズは、若手サックス奏者の中ではナンバー・ワンと目されており、仕事もどんどん入っていました。しかし彼は、この多忙の中では自分の音楽を確立する機会を失してしまうと感じ、ジャズの中心地だったニューヨークからシカゴへ移り、自分を見つめ直したのです。
55年にカムバックしてからのロリンズは、名曲「セント・トーマス」を含む傑作『サキソフォン・コロッサス』や、『ウェイ・アウト・ウエスト』などの名盤を次々に録音。はた目にはジャズ・ジャイアントの道をまっしぐらに突き進んでいるかに見えました。が、59年には再びシーンから姿を消してしまいます。この間ロリンズは、サックスを徹底的に練習するために、ニューヨークのウィリアムズバーグ橋の上で、来る日も来る日も楽器を吹いていたといいます(62年の復帰作には『橋』というタイトルがつけられました)。
そして69年には、3度目の雲隠れ。これは2年半におよび、ロリンズもいよいよ本当に引退かと噂されましたが、72年には当時流行していたフュージョンを意識した作品で第一線に復帰し、健在ぶりを示しました。それ以後のロリンズは、まさに“我が道を行く”の境地。これが今のオレだ!という堂々たる演奏で、ファンを喜ばせてくれています。 |
|
|